トランス・トランス・パニック! - 2/2

 当たり前ではあるが防衛本部が大混乱に包まれることは自明であった。
 仁武が取ろうとした対策は実にシンプルで、身体異常が認められた人間をことが収まるまで隔離する、という方法だった。
「まあ玖苑と十六夜が行方をくらませたのでおしゃかになったんだが」
「仁武さんのこめかみに青筋が立ってる……」
「おい、待て、あの状態でふらついているのかアイツらは」
「そうなる」
「チッ」
 流石の事態に顔を出した一那が司令室を出て行く。仁武はそれを遠い目で眺めて、まあ書類仕事は待ってはくれないんだよなあ、と判を手に取った。こっちも体外ワーカーホリックである。
「でも本当にどうするんですか?一日二日で治るって話なら、その間の防衛戦は純弐位、純参位の志献官だけで、ってなるんでしょうか」
 司令室にいるのは栄都、六花、朔、七瀬に媒人と仁武を加えた六人だ。一那はさっきまではいたが十六夜を探しに消えてしまった。
 まあそう仕向けたのは仁武なのだが。
「加えて、媒人だな」
「媒人さん?結合術、つかえるんですか?」
 志献官は原則男子しかいない。理由はいたって単純で、適正元素を持ち合わせた人間が何故か男性しかいないからだ。
 従って、仁武、玖苑、十六夜は身体能力はそのままだが元素術の行使が不可という結論に至っている。実際出来なかったのは四季と三宙が確認していた。
 ところが、なぜだか媒人は結合術の行使が可能だった。マジで何で、と四季が本日何回目か分からない疑問を呈したが、当然誰も分かるはずもない。
 媒人的にはそれはそうか、ぐらいの感覚だ。そもそも結合術は一一三計画の副産物で生まれたもの。その計画の被験者は年齢も性別もバラバラに集められていた。
 今まで現れた触媒の志献官がたまたま男性だったと言うだけで、別に触媒の志献官に関しては性別は関係ないのだろう。
「本音を言えば、媒人の出撃も避けたいところではあるが……この間のも、結合術がなければ何がどうなっていたか分からんからな」
「背が縮んだりなー」
「…………話を、元に、戻すが」
 仁武のこめかみの青筋が立ちすぎて出血しそうだなあ、と七瀬はさっと栄都の後ろに隠れながら眺めていた。
 ついでに現れた十六夜の後ろにいる一那の青筋もそれなりに立っているのでまあそういうことだろう。
「こんな状態だ。申し訳ないが、お前たちには負担をかけることになるだろう。元に戻り次第連携はするから、その間の防衛はよろしく頼む」
「了解」
 返事は脊髄反射で出るようにたたき込まれている。返事をしてから、そういえば、と六花が口を開いた。
「玖苑さんはどこへ行ったんでしょう」
「人混みを探していけば見つかりそう」
「あ、確かに!あの人いつも目立つもんな!」
「目立たれては困るんだがな……」
 疲れ切った声に十六夜が苦笑したがこいつも仁武の胃痛の根源の一つである。とはいえ、そこにツッコミを入れるほど元気でもないらしい仁武は頭を抱えたまま息を吐く。
 いないもんはどうしようもないからなあ。
 人はそれを現実逃避と呼ぶが、まあ玖苑という人間のことだ。身体能力はそのままであることだし、何かあっても撒いて逃げてこれるだけの力はある。
「以上、解散」
 頭痛をこらえながら号令を出せば、困惑を残したままに若人たちが退室していく。そうして残った媒人と十六夜を見比べて、仁武は盛大なため息をついた。
「十六夜、貴方も少しは媒人を見習ってくれ……」
「えー、だってなっちゃったもんはしょうがないじゃない?」
「鐵司令、俺に何か出来ることはありますか。司令代理としての仕事は出来ないでしょうが、対外的な事務処理であれば手伝えます」
「朔……助かる、だが今のところは問題ない。体外的な動きは四季に一任しているからな。あっちから何か要請があれば応じてやってくれ」
「了解」
「朔は真面目だねえ」
「清硫さんが不真面目なだけでは?」
 心底軽蔑したような目を向けられ、流石の十六夜もそうっと目をそらした。そらした先に媒人がいたが、媒人は媒人で足をぷらぷらさせながらモル公を撫でている。こっちもこっちでマイペース極まりない。
 朔はそんな様子の媒人を視界に入れてから、小さく首をかしげていた。
 純壱位三人が被害を受けるのは分かる。仁武も言っていた通り、当時最前線にいたのは仁武、玖苑、十六夜の三人で、この三人がデッドマターの攻撃を知らぬ間に食らっていてもおかしくはなかった。
 だが媒人も、というのは不可解だ。
 純壱位三人の後ろにいたのは三宙と栄都で、媒人はその更に後ろにいた。
 要は媒人もデッドマターの侵蝕術とおぼしきものの餌食になっているのであれば、三宙と栄都も食らっていないと何ともつじつまが合いにくいのだ。
 もちろん、この二人をすっ飛ばして媒人だけが攻撃を受けた可能性が全くないわけでは無いのだが、それでも違和感はつきまとう。
「媒人、一つ聞きたいんだが――」
「あああああ仁武さん仁武さん仁武さーーん!」
「だあーっ!栄都早いんだよ!」
「廊下を走るなお前ら!」
 朔がその疑問をぶつけようとしたが、それは元気なやや高めの栄都と三宙、それから珍しく正論で怒鳴りつける四季の声で遮られた。
 媒人はちらりと仁武の顔をうかがい見たが、既に顔色が悪い。錆の影響かと思ったが、どうあがいても別の要因だろう。
 さっきの防衛戦の参加者、やや高い声とくればもうダウトだ。
「どどどど、どうしましょう!俺たちも同じ感じになっちゃいました……!」
「前を!閉めろ!とんでもねえ痴女だぞ今のお前!」
「いやこれあれだわ、自分よりパニックになってるヤツ見ると逆に落ち着く理論だわー……ちょっとおっさんの落ち着きように納得……」
 朔は頭を抱えて仁武の表情はすっぽりと抜け落ちた。媒人は司令室入り口方面と机の方面を交互に見ると、医療班には行きましたか、と三宙へ尋ねる。
「いや、まだ。さっき異常が起きたんでびびってたら、まあ、アレ。栄都が弾丸よろしくとびだしちゃったもんでさー」
「うえええどうしましょう!これじゃあ戦力半減どころの騒ぎじゃないですよ!」
「頼む……頼むから少し静かにしてくれないか……」
「つかお前はこっちに来る前に医務室だろうが!おら行くぞ!」
「あっ、そっか!」
「く、鐵司令……その、大丈夫、ではないですよね」
「一日か二日……一日か二日の辛抱だ……」
「完全に自分に言い聞かせてるモル」
 朔の脳裏に一瞬七瀬の姿がよぎったが、あの様子だと飛び出した栄都に振り切られたのがオチだろうか。まあ身体検査で医務室に行かねばならないのでそこでゆっくり話せるだろうし問題は無いだろう。
 というかさっきのアレは何だ?暴風か何かか?朔は訝しんだ。
 訝しむって言うか普通に暴風とか台風の類である。一瞬だけやってきて秒で去った。なら来るな。報告役は四季一人で十分だろう。
「で、朔はどうしたわけ?」
「……っは!」
 十六夜の声で朔が再起動する。少し癪だが仕方ない。こうもインパクトの強いことが立て続けに起きれば誰だって呆然とすることだろう。
 正直その場に居合わせなくて良かった。でも被害を受けないのならちょっと見てみたかったかもな――朔はそっと頭を振ると。先の嵐を見てなお平然としている媒人へ目を向けた。
「媒人、先の戦いで敵は飛び道具は使用したのか?」
「いえ、使用はしていなかったかと」
「飛び道具、か。俺も心当たりはねえな。仁武はどうよ」
「俺もない。三宙と栄都が時間差で異常が発現したのも気にかかるが……」
「元素力の有無、とかでしょうか」
「あるかも知れないですね。自分は元素術はからきしですし」
 距離と元素力による抵抗力の有無。より正確に言えば、侵蝕術が身体にダメージおよび影響を与えるのにかかる抵抗の有無、と言い換えられる。
「となると、下手すると媒人は元に戻るのに時間がかかるんじゃないでしょうか」
「別に結合術はつかえるので問題ないのでは」
「大ありだ!お前は何でまれに自分のことをないがしろにするんだ……!」
「仁武、特大ブーメランぶっささってるぞ」
「今は媒人の話です」
「うわ開き直りやがった。もー、若人二人も何か言ってやってよー」
 媒人ははて、と首をかしげている。十六夜がそれ以上言及しなかったのは情けか気遣いか、あるいは両方か。
 朔は言葉の意味をはかりあぐねながらも、はあ、と適当に頷いた。
「ともあれ、これで十一人中六人は原則出撃は出来ないわけですから。何事もないことを祈るしかないですね」
「一日か二日……」
 媒人が足をぷらぷらと遊ばせている。
「まあ、大丈夫じゃないでしょうか」
「楽観的だな」
「だって皆さん強いでしょう」
「……ふ、当然だ」
 何を当たり前のことを、といわんばかりの簡素な返答に朔が僅かに笑みを浮かべる。それを微笑みながら見つめる年長者の目は暖かなものだ。
「頼もしいねえ」
「全くです」
 頼もしい後進がいる、というのは実にいい話だ。短けれど、朔たち後進はたくましく成長していっているのは喜ばしい。
 もっとも、こんなことで知りたくはなかったのが本音である。

 どんな異常事態であれど、人間眠くもなれば腹も減る。
「食堂には来るんですね」
「いや、本来は来ない予定だったんだけどな。どこぞの誰かさんが大声でわめきながら司令室に直行したんでもう色々諦めたんだよ」
「ああ……」
 六花は仁武と四季に心の底から同情した。
 仁武の表情はとんでもなく暗いというか見たことないくらい沈痛な表情ではある。多少は取り繕うとしているのが見て取れるが、ある程度距離を詰めれば丸わかりな程度には動揺していることが分かった。
 鐵司令も動揺ってするんだなあ。
 六花はややずれた方向に思考を飛ばしながら食事に口をつけた。そういうところはなんとなく共感ができて、少しだけ親近感があるかも、と咀嚼する。
「うう……すいません四季さん。俺、動揺しちゃって……仁武さんに伝えなきゃ!って先走っちゃいました……」
「兄さまは悪くありません。悪いのはデッドマターです……あれ、姉さま?」
「そういえば今はそうなるのかな。ま、俺はどっちでもいいぜ!」
「どっちでも?……どうしよう」
 気にするところはそこじゃないのでは?
 四季と六花の内心が一致したが口には出さなかった。ここ二人の絶妙にずれた会話はいつものことだ。首を突っ込む気力も無い。
「まあ悪いのがデッドマターってのは同意だよ。早いとこ元に戻ってくんねえかな」
「こっちでも医療班の資料とか見てみたんすけど、まあ数値的にも明日の暮れぐらいには抜けきりそうっしたわ」
「そうなのか?ならば安心だが……」
 三宙がさっぱり変わらない様子で四季の言葉に付け加える。こちらも被害受けた割にけろっとしていたが、そこはそれ、自分よりパニックになっている人間を見るとかえって落ち着く原理に因るものだろう。
 確かにあの時パニックになって弾丸よろしく飛び出す栄都、その先の厄介事を予感して追いかける四季、あまりの事態に固まる七瀬とまあまあなカオスだった。一周回って当事者の三宙が冷静になるのも無理はない。
「やっ、皆先に食べてるね。ボクもご相伴にあずかろうかな」
「玖苑さんも通常運転、っていうかあんまり違和感ないですね」
 思わずと言った風に六花が言えば、当然だとも、と玖苑がその端正な顔に笑顔を浮かべて肯定した。
「ボクは完璧で美しい舎利弗玖苑だからね。性別が反転しようと、完璧さと美しさに変わりはないよ!」
 すこぶる通常運転である。ちなみに一那曰く、玖苑は元気に煉瓦街に繰り出しては人混みを形成していた。あらぬ方向にファンを増やしていそうで後が心配である。
「まあ元はいいっすもんね、玖苑サン」
「ふふ、三宙くんももちろんかわいいよ!」
「ぶほっ!?」
「吹き出すな!汚いぞ!」
「いや吹き出しもするだろ!唐突にんなこと言わないでもらっていいですかね!?」
 リップサービスもほどほどにしてほしい。三宙も平然と振る舞っているように見えてしっかり動揺しているのだ。
 玖苑は三宙の反応についてあまり気にした様子もなく、もりもりと食事を胃に詰め込んでいる。相変わらずの食事量に、性別変わっても胃袋の大きさは変わんねーのなー、と少しだけ尊敬する。
 何を尊敬したんだ今、と思わなくもないが凝れも現実逃避の一環といえるだろう。三宙は深いことは考えないことにした。
 玖苑は元より中性的な男性で、その端整な顔立ちも相まって男女ともに虜にしがちだ。それが性別反転したところで大きく変わるかと言えば変わらないだろう。
 男性特有の筋肉質さが失われた代わりに、抜群のプロポーションを強調するかのように各所が膨らんだり引っ込んだりしているくらいだ。でも筋力は変わらないってどういうことだろうか。
「うらやましい限りだな。俺は外に出るなどとても考えられん」
「ああ、仁武は確かにちょっとアレだからね。身長的にも服もないし。っていうか、仁武、もしかしてキミさらし巻いているね?」
「ああ、巻いているが。邪魔だからな」
「あれは胸の形が崩れるときいたよ。はずそう」
「いや数日で戻るんだから関係な――服をひんむこうとするな!!」
 朔と四季が思いっきり吹き出した。六花は目をそらして栄都は七瀬の目を塞いだ。三宙は真っ赤になった栄都の視界を遮るように制服をひっくり返して頭にかぶせる。
 公共の場でなんてことしてんだこいつら――
 主な被害者が司令なのがいたたまれない。玖苑は酒でも入ってんのか。
「ひんむくだなんて失礼だな!ちょっとさらしをはずそうとしただけだろう?」
「それを人はひんむくと言うんだ!場所を考えろ場所を!」
「なるほど、場所を変えればいいんだね」
「いいわけがあるか!」
 まあまあな声量に若人はそっと目をそらした。流石にかわいそうがすぎる。あと玖苑は本当に場所を考えてほしい。
「……どうしましょう」
「玖苑さん止められる人間なんぞ鐵さん以外いないだろ」
「兄さま、前が見えません」
「俺も見えてない!でも多分まだ見ちゃ駄目な気がする……」
「フリーダム純壱位通常運転過ぎるだろ。おっさんが来る前に食べて逃げた方がいいなこれ」
「あ、頭が痛くなってきた……」
 ぐらぐらと朔の頭が揺れて、三宙はそっと肩をたたく。犬猿の仲といえど同情ぐらいはするし正直ちょっとかなり共感できた。
 とはいえ三宙の思惑通りさっさと食べて逃げるとかそういうことが上手くいくはずもなく、やっほー、と気の抜けた声と共に十六夜がふらりと現れた。四季は無言で立ち上がった。
「あれ、四季お残し?」
「……チィッ!」
 とんでもない舌打ちである。
「あ、おじさんはもう食ってきたからさー、なんとなく立ち寄っただけ」
「なら早々に立ち去ってくれませんかねこれ以上状況が悪化する前に」
「状況が悪化?何かあった?」
 四季の早口な物言いと端的に言ってカオスな状況に十六夜が疑問を呈して、それから、ああ、と納得したように頷いた。
 なんだ分かるときは分かるのかおっさん――そう思ったのが間違いであったのは三秒と立たずに判明する。四季は胃痛を覚えて胃を思い切り抑えた。もう食事の味も分からん。
「仁武のおっぱい揉んでるの?おじさんもって痛い痛い痛い!!」
「いい加減にしてください本当に!!」
「ボクは別に揉んではないかな」
「あれっそうなの?ほら、仁武のおっぱいデカいじゃない?ロマンとか無い?」
 いけしゃあしゃあと何を言うのか。鬱々としていた仁武の顔に生気が戻ったのはいいが主に怒りで生気が戻るのはどうかと思う。
 朔は一つ息を吸うと、淡々と、実に冷静に栄都へ向かって命令に近い提案をする。
「栄都、元素術を打ち込んでくれ。俺が水素を生成して吹き飛ばす」
「爆鳴気は駄目だと思う……周りの人も巻き込むし……」
 爆鳴気とは水素と酸素を二対一で混ぜた混合気体のことで、一度火を近づけると文字通り激しい音と光を発して爆発する気体だ。
 要は水素爆発のようなものである。
「食堂ごと吹き飛ばす気かよ。とっとと食って逃げるか……」
「あれ放っておいていいんでしょうか……いえ、関わりたくはないんですけど」
「誰も関わりたくはないんじゃないですかねー」
 四季と同じくらいのとんでもない舌打ちを鳴らすと、朔はピンを取り出す。何にせよ攻撃はするつもりらしく、慌てて栄都が止めている。食堂で私闘はしゃれにならない。
「っていうか三宙と栄都には矛先向かないのな」
「殺します」
「七瀬くん、向かないんだねって話だから。向いてないよ。鎌しまおう?」
「いやほら、なんていうかさ、セクハラになっちゃうじゃない?」
 仁武はいいのか、という目が一斉に注がれたが十六夜は意に介した様子はない。七瀬は一つ息を吸うと、鎌を構えたまま口を開く。
「鍛炭さん、兄さま、手伝ってください」
「アジド化合物は却下だ七瀬!食堂ごと吹き飛ばす気か!?」
「ブーメランブーメラン」
「流石に食堂ごと吹き飛ばすのはちょっと……訓練場で威力が低いのならいいよ」
「良くはねえだろ」
 アジド化合物はものによっては爆発する。いつぞやの防衛戦でデッドマターを退けるほどの威力を生み出す爆発だって創り出せるのだ。爆鳴気と同じくらいしゃれにならない。
 ぎりぎりと胃痛と頭痛に悩まされている上、同僚二人からのセクハラ圧にさらされている仁武が哀れでならない。
 なんなら本人が気がついていないのであえて言及はしていないが、そう言う目も注がれているあたり可哀想が過ぎた。
 玖苑がわかりやすく美女、いわゆるモデル型の美人であるのなら仁武はわかりやすくグラマラスな体型だった。元より鍛え上げられた肉体は性別が反転しても衰えた様子はあまりなく、言ってしまえば「おっぱいのついたイケメン」である。それはそれとしてとんでもない巨乳、いや爆乳と評するべきか。
 まあ野郎しかいない場所でそんな人間がいればそう言う目も向けられるだろう。手を出そうものならひねり上げられるのがオチだろうが。
 対して十六夜も元がそう言う雰囲気だからか普通に美女だし「おっぱいのついたイケメン」だ。忘れられがちだが顔はいいのだ、顔は。普段のけだるげな雰囲気と相まって、どこか色っぽさが増しているのが腹立たしい。
「でぇー、いいじゃん少しくらい」
「朔、いいぞ。やれ」
「ゴーを出すなよ四季!朔ならマジでやりかねな、ピンを仕舞え!」
「命令するな軽薄野郎!ここで風紀の乱れをタダさねば……!」
「…………ここまで擁護できない日が来るとは思いませんでしたよ」
「仁武まで!?分かった、分かった!ごめんって!もう言わないからさ、ね?流石に水素爆発はやばいんじゃないかっておじさん思うなあ!」
 舌打ちが二つ響いて以下省略。
「モッモッモッモッ……お前は本当に何も変わらないモルね」
「一周回って安心するよ。結合術がつかえるままってのもまだ安心だしな」
「あっちが騒ぎすぎとも言うけどな」
「純壱位が騒ぎすぎて栄都さんと三宙さんの衝撃相殺されてますもんね」
 媒人は軽く首をかしげて、そうですね、と適当に相づちを打つ。
「デッドマターの攻撃がこの手のタイプなら死人が出なくていいですね」
「…………じ、ジレンマ過ぎる」
 そんな有り得ないある日の話。