こんにちはヒーロー

「こんにちは、見知らぬ旅人/ヒーロー」



 こはくちゃんに焦点を当てたあんスタ原神ダブルパロディの話です。こはくちゃんの伝説任務こんな感じかなあ、とうすらぼんやり妄想したものです。

 クレビこはくちゃんも好きなのですが、やはり原神とダブルパロディするならDFの色が強い方が個人的に好みなので……ほらmihoyoさんってダークなお話に強いイメージがあるので……



 時系列は俺(私)たちはいずれ再開する~稲妻編プロローグあたりを想定しています。私がver2.0からの新参者なので違和感を覚えたら申し訳ありません。原神はキャラクターも魅力的なのでいずれは他の子との交流なども書いてみたいなあ、と思います。ダブルパロディの醍醐味ですものね。個人的にはディルックさん・ガイアさん・三毛縞、トーマ・綾華・こはくちゃんの組み合わせが見たいです。


 彼らは一風変わった冒険者だと嵐姉に紹介された。
「いや、悪いヤツではないんだけどね?こう、変わってるんだよ」
「変わってる?」
 悩まし気に、丁寧に言葉を選ぶ嵐姉に容赦のないパイモンの疑問が突き刺さる。正直に言えば、蛍もよく飲み込めなかったので、そっと黙ったままでいることにした。嵐姉はきゅっと眉間にしわを寄せた後、専門家みたいな二人組だよ、と付け足す。
「魔物退治の専門家さ。片方はソロ、片方は別のグループで本来は活動してるんだよ。ただ、たまに魔物退治が間に合わないことがあってね……臨時でタッグを組んでもらってるんだ」
「へえ、魔物退治専門チームってやつか!どんなやつなんだろうな、早くいってみようぜ!」
 早く早く、と急かすパイモンに苦笑を浮かべて、どの辺に行けばいいのかを尋ねる。稲妻出身らしく、もしかしたら人探しにも一役買うかもしれない、と嵐姉は言ってくれた。その心遣いは大変にありがたい話である。今までさんざんお遣いをしてきたかいがあるというものだ。
 嵐姉は少し考えるように腕を組んだ後、今なら多分モンドに向かってるんじゃないかな、と言った。
「モンドの冒険者協会から要請を受けたとかで、文句言ってたからね。まだ璃月は出ていないと思うけど……」
「そっか、ありがとう」
 それであれば道なりに探していこう。望舒旅館辺りで一泊しているかもしれないし、道行く人に聞いていけばいい。行こう、とパイモンに声をかければ、楽しみだな、と無邪気に笑って姿を消した。つくづく不思議な生物である。

 それにしても、とパイモンは不意に姿を現して言った。
「嵐姉、悪いやつじゃないって言ってたけど、なんであんなに口ごもってたんだろうな?」
 こてん、とパイモンが愛らしく首をかしげている。蛍は、それは確かに、と少しだけ想像を膨らませた。一風変わった冒険者。蛍の中で冒険者としてインプットされている人物を軽く列挙して――ふむ、と一つ頷く。
「もしかして……めちゃくちゃ弱いとか?」
「逆じゃないかな」
「じゃ、じゃあ、めちゃくちゃやかましいとか!」
「それはありそう」
 ふふん、と得意げなパイモンを無視して、蛍は冒険者らしからぬ冒険者を想像する。モンドではスタンレーが大冒険家として有名だったから、彼を冒険者の典型として考えてみる。彼の属性を反転させてみると、と頭の中でいくつか単語を浮かべてみる。
 非情。臆病。人でなし。
 多分違うな、と蛍はそっと首を振った。パイモンが言っていたくらいが妥当かもしれない。
「けどさ、お前のお兄さんのこと、知ってるといいよな!」
 にひひ、とパイモンが口角を上げる。それはそうだね、と暖かな気持ちになって、蛍は小さく口角を上げた。
 璃月は険しい山々に囲まれた国だが、モンドはそのほとんどが平野で構成されている。必然的に、その国の境目に近づくほど山の標高は低くなり、平野が顔をのぞかせる。
 故に、彼の姿はすぐにわかった。それでも、一風変わった、と表現されるほどではないのではないか、とも思う。蛍は後にその表現が彼の相方につけられる言葉であることを察するのだが、今現在それを知る由もない。
「チッ、やかましいわ!とっとと死ねや!」
 そしてかわいらしい見た目をしているものの、非常に口が悪い。ヒルチャールの群れを相手どる彼は、無駄のない動きで一体一体確実に魔物を仕留めている。風元素をまとった剣は秩序のない魔物をとらえられない訳がなく、まるで吸い込まれるように急所を撫で切りにする。
 流麗な剣舞、というわけではない。派手な剣技でもない。魅せられる剣技ではあるだろうが、その戦い方は実に質素である。ただ、相手の攻撃は確実に、最小限の動きで交わし、そして打つ。それだけ。シンプルが故に強い。単純であるが故に力量がにじみ出る。
「あ、あわわ……!ヒルチャールのやつ、まだ出てくるぞ!?」
 焦ったようなパイモンの声に現実に引き戻された。はっとして辺りを確認すれば、片付きつつあったはずのヒルチャールの群れは、増援によって復活しようとしていた。
「旅人、オイラたちも加勢しよう!流石に一人じゃ分が悪すぎるぞ!」
 そうだね、と一つ頷いて地面をけりだす。片手剣を握り、岩元素を手繰った。
「荒星!」
「うおっ!?危な、けど助かったわ。ありがとな」
 鈍い落下音と共に樽状の岩元素生成物が墜落する。それは少年とヒルチャールの間に隔たりを作り、一時的に彼の背中の安全を保障するものとなる。
 ついでに炎元素と接触したらしく、周囲に結晶化した元素が飛び散っていた。コッコッコッ、と聞きなれない笑い声をたてて、少年は炎元素の結晶を盾に風元素を剣に溜める。吹きすさぶ風と、不気味なまでの笑み。僅かに背中に走った寒気は気のせいではないだろう。それでも彼の援護を、と岩元素をヒルチャールの退路をふさぐように円形に展開する。
「これで詰みじゃ。また来世に期待するんやな」
 明確な死刑宣告と共に放たれた風の刃が、ヒルチャールたちを無慈悲に八つ裂きにしていた。
 ふうっ、と一息ついて少年が武器を仕舞う。増援の様子がないことを確認して、蛍も武器から手を離した。いつの間にかひょっこり姿を現していたらしいパイモンは、やはりにこにこ笑顔で、流石だな、と誇らしげに胸を張っていた。だからなぜそこでパイモンが誇らしげになるのだろう。
「はーっ、わしもまだまだやな。知らん人に迷惑かけてまうとは」
「でもでも、おまえもすごかったぞ!あんなヒルチャールの群れ相手に圧倒してたじゃないか!」
「ありがとさん。けどぬしはんも中々やるやないの?助けられてもうたわ」
 若干とげを含む物言いだが、その表情は柔らかい。少し外はねした桜色の髪。顔立ちは綺麗系に分類される、全体で見れば間違いなくイケメンと呼ばれる部類に入る少年だ。何となく幼さを感じさせるものの、物言い自体は非常に老成した印象を受けた。
「で、こんなところまで道草食いに来た、っちゅうわけやないやろ。自分ら、わしに用でもあるん?」
「嵐姉に紹介されて」
「……紹介?わしを?そないなことあるんか……?」
 蛍は目下兄を探すために旅をしている。冒険もその手段に過ぎない。いや、何となく最近手段が旅から冒険になりつつあるような気がしないでもないが、些細な事だろう。そんな時、嵐姉から「各所を旅した経験があり、もしかしたら知っているんじゃないかな」と紹介されたのが彼ら――三毛縞斑と桜河こはくである。ついでに伝言もとい依頼の伝達も頼まれている。今回は蛍の目的達成ついでにお遣いといった体だから、そこまで面倒くさくはない。
 そこまで事情を説明すれば、少年はやっと納得した表情を浮かべた。残念ながら人違いやわ、と苦笑を浮かべる。
「ま、桜河こはくっちいうんはわしじゃの。斑はんは今別行動中じゃ、合流するんも今んとこは未定やけど……協会からの依頼があるっちいうんじゃ、早々に集まらへんと」
「こはくは依頼が嫌なのか?協会の冒険者なのに」
「冒険が嫌っち訳ではないんやけどな。わしら宛の依頼が……まあ、面倒くさいんよ」
 大きくため息を吐いて、見せて、と依頼用紙を要求される。簡素な依頼用紙を手渡せば、彼はざっと目を通して、途端、小さく笑みを浮かべた。にやり、という擬音が付きそうである。
「なんや、思ってたより大したことあらへんやないの。これならわし一人でもなんとかなりそうじゃ」
「二人に出された依頼なんじゃ……」
 大丈夫なのかと思い尋ねてみれば、こはくは不敵な笑みを浮かべて見せる。こんくらいできんと思われるんは心外やわ、と実に楽しそうな声でこたえた。
「そんなに簡単なのか……?なあ、どんな依頼なんだ?」
 おそるおそる、といったようにパイモンが依頼用紙を覗き込む。こはくが企業秘密じゃ、と依頼用紙をくるくる巻いてしまったので、中身を見ることは叶わない。けちんぼ、と文句を垂れる小さな仲間に困り笑いを浮かべた。
「手伝う?」
 今回に限っては兄のためでもある。彼の依頼が早く片付かなければ、おちおちゆっくり話も聞けないだろう、と蛍は手伝いを申し出る。こはくは、意外そうな表情を浮かべて目を瞬かせた後、余計なお世話じゃ、とくつくつ笑った。
「他人様に手伝わせるほど落ちぶれてないわ、ぬしはんは旅館かどっかで待っとれ」
「こっちも貴方に用事がある。とっとと終わらせたいの」
「なんじゃ、斑はんやなくてわしに用があったんか?」
「最初っからそう言ってるだろ!」
「いっとらんわ、アホ。まあええわ、ほんならとっとと済ませましょ」
 こはくは呆れをにじませた声でパイモンに言い捨て、さっさと歩き出してしまった。待てよ、と情けない声が響いて、何となくおかしいな、と蛍は小さく笑みを浮かべた。こういうのは、悪くないと思う。
 こはくはそのまま璃月を離れる方向に進み、蛍たちはモンドに入る。青々とした草原と心地いい風が、ここが自由の風が吹く国であることを告げていた。
「なあなあ、どんな依頼なんだ?オイラたちだって手伝うんだから、教えてくれたっていいだろ!」
「ただの怪物退治じゃ、やかましい」
「怪物退治なら、普通に冒険者協会に依頼を出せばいいだけなのでは……」
 思わず漏らせば、楽し気にこはくが喉を鳴らした。察しがええなあ、と愉快そうな声。えっえっ、とうろたえているパイモンは置き去りらしい。
「ま、確かに普通の怪物退治ならそうやろな。ただ、周辺に遺跡があるっちいうんで、調査も依頼されとるんよ」
 ほんの少しだけ誇らしげに胸を張って言う。そうなんだ、と蛍は不思議そうな表情を浮かべて頷いた。遺跡、遺跡と来たか、と不意に今までの旅路を思い出す。遺跡に入ったことも少なくないが、その周辺に魔物がいるとなると穏やかな話ではなさそうだ。
「もしかして、アビス教団?」
「――驚いたわ、意外と鋭いんやな?」
 正解やで、とこはくは今度は淡泊に言い捨てる。その言葉の裏に、とげとげしいものを感じ取って、蛍は僅かに顔を曇らせた。
 こはくは淡々と言葉を連ねる。魔物退治専門家、というが、その実は普通の冒険者たちには任せることができない案件を任されているだけである、と。いい言い方をすれば「魔物退治の専門家」、悪い言い方をすれば「雑用係」やわ、とまだ幼いはずの少年はやけに達観した声音で話した。
「所定の様式で書かれとるからなあ、わしらにしか分からんように書いてあるっちゅうことやな。ぬしはんらが見てもなあんも分からへんと思うで?」
「暗号ってことだな。何かかっこいい……」
「コッコッコッ、そういうのに憧れるお年頃っちゅうわけじゃの」
 さりげなく子供だと言われているが、パイモンは秘密の暗号という魔の響きに囚われてしまっている。いや、分からなくはないが。分からなくはないが。暗号とか、表ではこうだけど裏では……みたいなそれは、やはりどうしても心をくすぐられるものがある。そういうものに男女は関係ないだろう。
 共感と呆れが同時に湧き上がっていたためか、よくわからない表情を浮かべていた自覚がある。それを、やはり何か大切なものを眺めるような目でこはくは黙って見守っていた。
「あのアホンダラ共、最近動きが活発らしゅうてな。はー、わしかて本業の方に注力したいっち言うとるのに」
「あ、あほんだら……」
「そんなに目立つ動きがあるの?」
「まあ、そうやな……ぬしはんも無関係やないし、知っといてもええか」
 それはどういう、と聞き返そうとする暇もなく、ついてき、とさっさとこはくは歩を進めてしまう。と、思いきや、彼はふと思い出したように足を止めた。
「そういや旅人はん、腕に覚えはあるん?」
「結構強いよ」
「そうだぞ!旅人なら、ヒルチャールの群れなんか朝飯前だもんな!」
「なら安心や」
 柔らかな笑みを浮かべて、こっちじゃ、と今度は手招きをされる。彼を見失わないように急ぎ足でついていった。
 萩花州を越えて、石門を過ぎる。険峻な山々に囲まれた――というわけでもないが、ともかく谷の底を突っ切っていく。そういえばこの頭上にある丘を西に進むと無妄の丘だったな、とふと思い出した。それなりに距離は離れているはずだが、心なしか不気味に思う。
「な、なあ、なんかここおかしくないか……?」
「……こはくはどう?」
「自分の仲間ぐらい信用したらどうなん?ま、空気はおかしいやろな」
 そんなこと言われても、往々にしてこの手の手合いにはパイモンは役に立たないのである。ビビり、と言い換えられた。テイワットの案内人として、あるいは良き友人として、パイモンは欠かすことのできない最高の仲間であるとは思っている。思っているが、それはそれ、これはこれ、というやつである。
 だから、こはくにとやかく言われる所以はない。あえて口に出すなんてことはしないけれど。
「みょうちくりんなまじないでもやっとるんかな」
「アビス教団のやつら、何を企んでるんだ?ま、まさか幽霊を……」
「それはないやろ。バカも休み休みいうこっちゃ」
 それはそうだろう。どこぞの往生堂の堂主はともかく、そう幽霊が都合よく利用されてくれるとは思えなかった。彼らは強い無念を抱くからこそとどまってしまうものであり、その思念故に活動が許されているようなもの。それを、好き勝手に行使できるとはとても思えなかった。
 そういってみれば、こはくは満足そうに目を細める。
「まあ、何をやっとるかなんて知ったこっちゃないけどな。とっととぶっ叩いてしまいじゃ」
「でも、どうやって?ここには誰もいないみたいだけど……誰も?」
「あれ、おかしいな?ここっていっつもヒルチャールが陣取ってたよな?」
「そういうこっちゃ。ぬしはん、元素は辿れるか?」
 もちろん、と頷く。こはくは僅かに目つきを鋭くして、そしたらぬしはんは今まで来た方向を調べてくれ、と依頼した。結局お手伝いらしい、とパイモンがわざとらしく肩をすくめれば、こはくは困ったように眉を下げた。
「なんや、だったら大人しくどっかで待っててもらうしかあらへんね。わしはこの仕事が終わったら本業に戻るけど」
「手伝う以外の選択肢がないじゃないか!」
「コッコッコッ、忙しい時に訪ねてきたんはぬしはんらやろ?」
 演技であった。今ではにやりと笑みを浮かべていた。手伝ってもらうことまで織り込み済みだったらしい、恐らくは蛍たちがこはくを訪ねてきた時点でそう算段していたのだろう。中々切れ者である。いや、こざかしい、と評するべきか。
 どちらにせよ、蛍はとっとと自分の要件を伝えたいだけである。今回のお手伝いは自分のためでもあるから、そこまで面倒くささは感じていない。
 ――それに。
 アビス教団が絡むのであれば、彼女たちにとっても無関係ではないのだ。
「それで、どうすればいいの?」
 急かすように声を出せば、思っていたよりも冷たい声が出た。くすり、とこはくが笑みを浮かべる。
「拠点を見つけてぶちのめすだけの簡単なお仕事や、芸のないことやの」
「つまりいつものか」
「慣れとるなあ……」
 同情半分、呆れ半分の声にパイモンがやれやれと肩をすくめる。やかましいことである。
「アビスの魔術師っち言うんやったっけ?奴さんら、スライムを集めとるらしいんやわ」
「ってことは、元素視覚で辿れるな!」
 うん、と一つ頷いて視界をくるりと切り替える。彩度の落ちた世界に、元素の痕跡が美しく走っていた。その視界は、美しいものであると蛍は思う。
 軌跡はいくつかの色を帯びていたが、主だったものは火元素、ついでに氷元素といったところだろう。この二つとアビスの魔術師、ぱっと思いつくものといえば、もうあれしかない。
「……爆弾かいな。芸のないことやわ」
 ヒルチャールに芸がないのか、アビス教団に芸がないのか。物騒なことには変わりあるまい、と蛍は表情を険しくした。
 因縁浅からぬことを察したのか、こはくはそれ以上アビス教団について言及することはなかった。さて、と切り替えるようにこはくがうんと伸びをする。
「行こう」
「おう!あいつらの企みを阻止してやろうぜ!」
「コッコッコッ、正義の味方気取りじゃの」
 弾むような声がころころと草原を転がっていった。
 少し離れた丘陵に彼らは陣取っていた。白昼堂々、何とも舐められたものである。バカなんか間抜けなんかわからんわ、と呆れたような声が落ちたものだから、確かに、と思わず蛍も笑みを浮かべた。
「さて……」
 藤色の目が冷徹な色を帯び始める。これが彼の仕事モードらしい。何となく、ドラゴンスパインで出会ったロサリアを思い出した。
「ぬしはん、奇襲は得意か?」
「まあ、なんとか」
「旅人は何でもごっ!?」
「やかましいわ、阿呆。気取られたらどうするんじゃ」
 勢いよくパイモンの口がふさがれる。ぷはっ、と手が外されるや否や、パイモンは蛍の背中に隠れてしまった。今のはパイモンが悪いと思う。
 しかし、奇襲か、と蛍は敵陣の様子を伺い見た。
 炎と氷のアビスの魔術師がそれぞれ一体、それからヒルチャールが五体、ヒルチャール暴徒が一体。それなりに数があるな、と蛍は眉間にしわを刻む。ヒルチャールは蛍にとってさして脅威ではないものの、数が多ければそれだけ厄介だし、奇襲の成功率も下がるだろう。さらに最悪なことに、蛍たちが隠れている岩以外には身を隠せる場所はなさそうだ。
「出来なくはない、くらいっちことやね。ならわしがアビス共を崩したる」
「ということは、私は気を引いておけばいい?」
「せやね。女の子に頼むんは気が引けるけど、ぬしはんも歴戦の冒険者やろ?ならこんくらいはできんとなあ」
 コッコッコッ、とまたあの特徴的な笑い声が落ちた。望むところ、と小さく口角を上げて、合図もなしに岩陰から飛び出す。
 ギャア、とうるさい喚き声が鼓膜を震わせる。不快さに顔をしかめて、片手剣を振るう。
「何故ここがばれて……!フン、ここで始末してやる!」
 小物丸出しだなと思いつつ片腕を突き出した。周囲から岩元素をくみ上げ、巨大な生成物を形成する。
「落ちろ!」
 重力のままに落下する巨大質量がヒルチャールたちに直撃する。岩元素生成物は形を保ったまま、アビスの魔術師とヒルチャールの間に壁を作っていた。
 これで一対二の環境に持ち込めた、と蛍は片手剣を握り直した。らんらんるー、と未だ優勢を疑わない魔術師の音が落ちる。飛んでくる氷塊を横に飛んで避け、続けざまに放たれた炎の球を無視するようにつっこむ。まさかつっこんでくるとは思わなかったらしい彼らは分かりやすく動揺の色を浮かべていた。
 まったく、なんと――
「みっともない」
 低い声。いないはずだと彼らが思いこんでいる第三者の声とともに、アビスの魔術師のバリアがはがされた。
「援軍はきいひんよ。ふふっ、何とも間抜けなことやなあ?」
 発声しながら攻撃の手はさっぱり緩まない。こはくの神の目は風の目らしく、びゅおっ、と暴力的な風が吹きすさんだ。
 蛍は炎の魔術師を、こはくは氷の魔術師を相手どる。バリアがはがされたアビスの魔術師など恐れるに足りず、容赦なく剣を急所に突き刺した。
 その最中。
 背骨の芯から凍り付きそうなくらい、凍てついた声を、拾ってしまった。
「――地獄の底でまた会おうや」
 冷酷、冷徹、無情、非情。
 朗らかに笑い、冗談を言っていたとは思えない声。それを聞いて、どこか納得している自分に気が付いた。

 スライム爆弾を処理して、一通りの報告が終わった後でこはくと蛍は璃月の街で落ち合った。
「私とよく似た人を見なかった?」
「見てへんな」
「即答かよ!もうちょっと考えてから返事するとかないのかよ!」
「見とらんもんは見とらんわ、阿呆。第一、そないな目立つ見た目しとったら嫌でも印象に残るやろ」
 だよね、と蛍はさして落胆することなく頷いた。嫌な慣れやの、と同情を帯びた声に、肩をすくめて応えた。
「でも……ううん、どうやろ」
 きゅっとこはくの眉間にしわが寄る。少しだけ悩むように腕を組んでから、まあええやろ、とこはくは口を開く。
「嵐姉はんからわしらはコンビっちきいっとったやろ」
「そうだな。今回はお前一人だったけど……」
「斑はん……ああ、ああいう仕事んときの相方なんやけど。もしかしたら知ってるかもしれん」
 まだら。響きからして、稲妻の人だろうか。
「その人は、今どこに?」
 望み薄であることに違いはないが、手掛かりはないよりある方がましである。聞いて見れば、今度こそこはくは頭を抱えてしまった。
 曰く、分からないらしい。
「そんなことあるか!?相棒なんだろ?」
「あの阿呆、基本やかましいわうるさいわ図体はデカいわで目立つんやけど、行方くらませるときは本当に捕まらないんや……」
「……こはくはそいつのこと、嫌いなのか?」
「嫌いではないな。好きでもないけど」
「そ、そっか……フクザツな仲なんだな……」
 しれっと返した彼の言葉にも表情にも曇りはない。しかし、行方がつかめないと来たか、と蛍は頭の中で優先順位をつけ始める。ひとまずは後回しでいいだろう。道中話を聞いて、足取りがつかめたら追う、程度が丁度いいかもしれない。
「それがええやろな。まあ、会えばすぐわかると思うで?デカくてうるさくてかなわんから」
「そっか、覚えとく」
 別れ際、そういうなんて事のないやり取りを交わしてから、彼と別れた。少しだけ不思議な雰囲気をまとった、けれど年相応の幼さも持った少年だったな、とぼんやりと思う。
 もし、また仕事を手伝うことになったら、彼の相方か、彼の仲間か。いずれにしても、是非とも会ってみたいものである。