トランス・トランス・パニック! - 1/2

頭の悪い話。IQを1にしてお読みください。

年長組+媒人が女体化してギャアギャア騒ぐ話。気が向いたら続きを書いてるかも。というか書いてるので近いうちに続きあげます。

本当に頭の悪い話。主に仁武さんが常に胃が痛いしてる。

IQを下げてからお読みください。
合言葉は「細けぇことはいいんだよ!!!!」


 燈京にぽっと出のデッドマターが湧いてくるなんて良くある話で、純の志献官が対応に当たるのも正直言ってしまえば良くある話ではある。
 だからこそ、本日も本日とてよくある燈京防衛戦である――はずだった。
 今回の防衛戦では近くを巡回していた栄都と三宙、それからあまりに休まないことにしびれを切らした玖苑と十六夜が仁武を湯射街を連れ回していたことから純壱位の三人が対応に当たっていた。
「って、仕事休ませるために連れてきたのに結局仕事してないですか?」
「全くだよ!せっかく頑固な仁武を引っ張り出すことに成功したというのにね!デッドマターはつくづく空気が読めなくて困る」
「デッドマターが空気を読んでいたら今頃侵蝕は止まっていただろうがな……」
「そらそうだわ。いやでもさあ、タイミングってあるじゃない?流石のおじさんも激おこかもなーって」
「おっさんが『激おこ』って言っても気色悪いだけなんですけど……」
「辛辣!!」
 タイミングと面子のせいか、絶妙に空気が緩い。
 巡回中だった媒人も駆けつけていたが、そのあまりの緩さに首をかしげるレベルだった。何なら肩に乗ったモル公が野菜スティックをかじりつつ、ゆるゆるモル、こんなんで大丈夫モルか、等と言い出す始末。
 とはいえ純壱位が三人もいるわけだし、三宙も栄都も実力者だし……媒人はせめて自分は気を引き締めて臨もうと、純の志献官五人と共に侵蝕領域へ突入した。
 ……いや決して、別に、他の五人が気分ゆるゆるで臨んでいたとかそういうわけではないのだが。
 そこは常日頃からデッドマターと戦っているだけある志献官というべきか、急行中のゆるゆるな雰囲気はどこへやら、ひとたび侵蝕領域に踏み込めば弛緩した空気は一気に緊張感を帯びた。
「さーってと、せっかくのお休みを台無しにした責任ぐらいはとってもらわんとねー」
「当然だね!さっ、行くよ十六夜!」
「……思っていたよりも侵蝕領域が住宅街に近い上、領域の広がり方が早い。媒人、最悪結合術の行使も視野に入れてくれ」
「了解」
「年配組やる気ばっちしって感じじゃん。俺らは援護に回るぞ、栄都」
「オッケー!これ以上好き勝手にはさせない!」
 牽制の意味を込めて三宙が電気銃に弾を込め、栄都が酸素の元素術を纏わせた矢を弓につがえる。 ギリギリと限界まで引かれた弦が音を軋ませて、抑えていた手が離れると同時に矢が前方へと飛来する。
 その矢が命中するのに合わせて三宙が引き金を数度引き、デッドマターの足とおぼしき部分と顔面に相当するであろう部分に向かって発砲した。
 ぎい、と鳴る音はただの物音にも聞こえたし、デッドマターの悲鳴のようにも聞こえる。相も変わらず意味わかんねえな、と口の中で転がして、三宙は次の攻撃を試みるべく元素力を練り上げた。
 栄都の矢と共に打ち込まれたリチウムの弾丸が矢の命中とほぼ同時に着弾する。それを視認して、玖苑が無造作に鞭を振ろうとし――そこで初めて表情に焦りがにじんだ。
「――三宙ァ!栄都ォ!待避しろ!」
「間に合わんか、クソッ」
 普段飄々と振る舞う十六夜から出された明確な退避命令と、全く余裕のない仁武のつぶやきは明らかな異常事態を示すものだ。
 三宙と栄都は武器種の都合上はじめから後方で戦う。その上で退避命令を飛ばすと言うことはそれでも危険だと思われる攻撃を敵が繰り出そうとしている、ということだ。
 ぶわりと膨らんだデッドマター形成体の様子は三宙も栄都も見たことのないものだ。アレではまっとうな物理攻撃が効くとも思えない。半液状のそれは、派手な爆発か何かで吹き飛ばす以外の選択肢がないようにも思える。
 前線には仁武がいる。既に鉄の元素を練り上げてドーム状の防壁を形成していた。至近距離にいる志献官は仁武の防壁内部にいれば少しは持ちこたえられることが見込まれる。
「三宙、栄都」
「結合術だろ、早く頼む!」
「こっちも準備は出来てる!よろしくお願いします!」
 元々結合術の使用も視野に入れろと言われていた位だ、緊急での使用は問題ないだろうし、純壱位三人が飲み込まれたのは端的に言ってまずい。
 媒人は目をこらして二人の想いの糸へ触れて、つい、とつなぐ。丁寧に、途切れることのないように。
「――結合!」
 キン、と金属がふれあう音にも似た音を聞く。
 結合術によって増幅された元素術が、明確な殺意を持ってデッドマターへと降り注ぎ、そして――

「……で、光壊を確認したにも関わらずなんか妙なことになった、と」
 宇緑四季は困惑していた。
 というか誰であれ困惑するだろこれは、と心の中で語彙が許す限りの罵詈雑言を吐き散らしつつ、表情だけは取り繕いながら言葉を選んだ。
 なお、現場に居合わせていた栄都と三宙は沈痛そうな表情の奥に四季と同じく困惑を強くにじませている。
 そらそう。
「いやー、参っちゃったねー。性別返るデッドマター?なにそれ?……本当になにそれ?」
「ふふっ、流石はボク、性別が変わろうとボクの美しさに変わりは無いね。元素術がつかえないのは困るが、身体能力に変わりはなさそうだ」
「………………どう、どう報告しろって言うんだこれは……!」
 主に仁武の胃痛具合がまずい。
 まあ元から堅物っぽいっていうか朔と似てくそ真面目っていうか、というかイレギュラーな事態に弱そうっていうか、そういうところありそうだし。四季はそれなりに失礼なことを現実逃避ついでに考えつつ、マジでどうするんすか、と不毛な会話を続けた。
「ま、まずはほら、状況確認から、ですかね?」
「栄都、お前いざって時は頼りになるよな。この後の進行任せたぜ」
「え?よくわかんないですけど、頑張ります!」
「四季さーん?ピュアな栄都使って楽しないでもらっていいすか?」

 先のデッドマターを斃したまではいいのだが、そのあとが明らかにおかしかった。
 まず発端は媒人が首をかしげだしたところだ。三宙と栄都の後ろにいた媒人がはて、と首をかしげたものだから栄都が何事か尋ねると、媒人は一つも表情を変えずにこういったらしい。
「自分のアレがないです」
「……アレ?ガラス管のこと?」
「アレです」
 ぽふ、とたたいたのは股間である。この時点で栄都と三宙の思考は停止した。
 モル公はぷいぷい言いながら鉄のドームまで行くと、いつまで引きこもっているモルとぺちぺち鉄の壁を小さな手でたたいていた。
「まあなっちゃったもんは仕方ないし、出るしかないんじゃない?」
「ストップ、ストップだ十六夜!このままじゃ仁武が痴女になってしまう!」
「大声でんなことを言うな!」
「だって仁武の制服前が閉まらないだろう!?」
「……いや今なら閉ま、ら無いな……」
「とりあえず俺の上着前に持って行けば問題ないでしょ。モル公も心配してるしさ。っていうかほら肝心の所が見えてないからちょっとセクシーなだけで大丈夫だって」
 十六夜が冷静なのは何故なのか。それと発言がちょこちょこ最低なのはどうかと思う。やはりおじさんは助平しかいないのか。
「今痴女ってワードが聞こえたの、きのせい?」
「ううん、俺も聞こえた」
 玖苑の声も大きいが仁武の声も体外大きい。あの人基本は真面目で常識人だけど妙なところで天然だよなーと三宙は思考停止しつつ現実逃避を試みていた。
「あと媒人サン股間揉むのやめてもらっていい?」
「無いのが違和感で……」
「ここ少ししたら他の人も来るからさ、帰ってから確認しようぜ」
 栄都の優しいド正論にようやく媒人が頷いた。三宙は栄都のナイスフォローに心底感謝した。本当に目のやり場に困るのでやめてほしい。
 しかし一向に出てこねえなあ、と未だに鎮座するドームを見やる。うかうかしてると一般人の往来も戻ってきてしまう。その中に鎮座している鉄のドームはどうあがいても異様だ。何かの怪異を疑うレベルの異常である。
「仁武サーン、玖苑サーン、おっさーん、まだでてこれねえんすか?手当が必要ならなおさら早くでたほうがいいんじゃねえっすかね」
「ほら三宙もこういってるじゃないったい!何で今おじさん殴られたの!?」
「どさくさに紛れて揉んだからじゃないかな」
「何を??」
 三宙の疑問は至極もっともな疑問である。本当に何を揉んだのだ、まで思ってから脳裏によぎった媒人の先の行動。
 三宙は十六夜を心底軽蔑した。
「三宙の顔がチベットスナギツネ見たいになってるモル」
「オレ、三宙のこんな顔見たことないや……」
「十六夜サイテー!ってやつですか」
「媒人さん割とそう言うののるタイプなのね……今じゃなくていいんですけど……」
「あっなんか外でおじさんの株が急速に下がってる気がする!」
「仁武、じーんー、いい加減外に出て戻らないと。今出た方がまだ人目につかないんじゃないかな」
「ぐ……いや、まあ、それはそうなんだが……」
「なんか声高くないかモル?気のせいモル?」
「言われてみればそうかも……?」
「確かに気持ち高めっぽいなー、あ」
 ぱき、と割れる音に三宙がモル公を抱えて一歩下がる。元素術が解除されたのだ。
 ぱきぱき、とドームの天井から崩れていくのは安全性を考慮してのことだろう。当たり前ではあるが、多量の元素を操ろうとすればそれなりの集中力と体力を要する。
 多量の元素使おうとするのであれば、徐々に蓄積させて顕現させたほうが安定性が高い。それは元素術を解除するときも同様だ。
 で、やっと頭が出てきたあたりで三宙の思考は停止したし栄都はわかりやすく慌てふためいた。
 なお媒人の表情は一つも変わらない。メンタルどうなってんだコイツ。雑草なみに図太いのか。
「…………待って?」
「防衛本部に戻るぞ」
「えー、三宙ちゃん、おじさんたちのビフォーアフターに対してノーコメいいだだだだだだだ!!仁武!?さっきから酷くない!?」
「防衛本部に、戻るぞ」
「仁武さんが見たことない顔してる……」
「モル公も固まってますね」
「うわほんとだ!モル公、しっかりして!仁武さんたちは無事だからさ!」
「この状況で無事って断言できるのマジ?」
 栄都のメンタルも鋼であった。いや、ここはずれていると表するべきかも知れない。防衛本部はぼけしかいねえのか。いないんだろうな。
 三宙はすべての突っ込みをドブに全力で投げ捨てると、朔の反応が楽しみだわー、などと明後日の方向へ思考を飛ばすことにした。

 四季はそっと顔を手で覆った。
 何一つ分からない。真面目に一つも分からないし考えたくもない。
「とまあ、そういうわけだ。体外交渉は任せたぞ四季」
「は?」
「年齢、階級、交渉術、いずれも満たせるのが四季しかいないんだ……頼む……」
 仁武の声は半分死んでいる。顔は完全に死んでいる。そらそうである。
 成人済みの純壱位で無事な人間は一那がいるものの、一那の体外交渉術はお察しの通りだ。時点の四季に白羽の矢が立つのは当然とも言える。
 その理屈に納得してしまう自分がいて、四季は心の底から舌打ちを鳴らした。栄都がちょっとびっくりしていたが知ったことではない。
「精神攪乱系のデッドマターはありましたけど、身体そのものに作用するデッドマターもいるんですね。あれ?デッドマターは光壊したのに治ってない?なんで?」
「一応医療班の見解的には後遺症じみたもんっつーか、デッドマターの置き土産じゃないかって話。多分」
「本当に未知な部分が多すぎて困るね、デッドマターってやつは。あ、仁武、ボク買い物行きたいからちょっと煉瓦街行ってくるね!」
「今出るヤツがあるか!!」
「ええ、いいじゃないかちょっとくらい!まさかボクたちの身体が元に戻るまで外出禁止とか言い出すんじゃないだろうね」
「当たり前だ!どうあがいても外に出ていいような状況じゃないだろう!」
「仁武、仁武、落ち着け落ち着け。若人がびびってるから」
「いやびびってはねえっす」
「仁武さんのが正論だなーって聞いてました」
「流石に今外出るのは色々心配だなーって思うんですけど……」
 ごりごりぎりぎり。
 玖苑の襟首をひっつかんで止める仁武、いさめる十六夜、ぶうぶう文句を垂れる玖苑、それからぼうっと座ったままの媒人――いずれも共通しているのは性別が変わってしまっているという点だ。
 本当に何で?
「意味が分からなさすぎるだろ。マジで何で?」
「まあ、正直前線にいた俺たちはともかくだな。媒人までその作用が飛んでいるのは本当に意味が分からない……媒人、本当に異常は無いんだな?」
「ついてるもんがついてないって異常以外は戸国は。あ、胸もな……貧乳……?」
「んぐふっ」
 三宙がむせた。仁武は顔を手で覆った。
「ほんとうモル。ちょっとふにふにしてるだけモル」
 ぽふぽふと媒人の胸元を小さな手でたたいているモル公を媒人がさわさわと頭を撫でている。
 それを視認した栄都が途端に真っ赤になってモル公を抱え上げた。行き場を無くした媒人の手が空中で止まっている。
「ああああああももももモル公!だめだよそういうのは!」
「栄都、うるせえ」
「だって!よくないですよこういうの!」
「あっはっはっ、栄都くんはピュアだね!」
「やべ、鐵さんに同情できる」
「……帰りたい……」
 最後とんでもない本音が漏れた気がしたが流石に言及するほど四季も鬼ではなかった。仁武の胃に穴が空いてそうなほどの惨事である。
 医療班の見解に寄ればもって二日か三日、まあ一日程度で元に戻るだろう、とのことだ。それは侵蝕領域が核となるデッドマター形成体が光壊すると同時に消えることを鑑みての推測だ。
 当てになるかどうかは別として、それを頼りにするしかない。
「……けど全員きれいですよね」
「元がいいもんな……絶対気にするべきはそこじゃねーんですけど」
 性別の変化が確認されたにもかかわらず見た目がほぼ変わらない媒人が唯一の癒やしだな、とか思考を明後日に飛ばした三宙がそんな相づちを打った。